電車とバスを乗り継いで教習所へ通った日々。仮免を取る時期が雪の降る季節にかかった。凍えながらバス停で待った。思い返すと涙が出てきた。悔しさは通じない。
* * * * * * * * *
井上はズルズルと問題を先延ばしにするだけだったのだ。
言ってる事とやってる事が全く違い。
蓋を開けてみたら全部が実行されてない。
方向転換をするにもあまりにも間際過ぎた。
長期間信じた話が2か月前に白紙になったのだ。
井上は冬の間、スキー旅行を繰り返し自分は充分楽しんでてそれでいい。
私は夏の大きな旅行を目標にしていたから。
その計画のために我慢や節約もした。
先の楽しみのために、誰ともどこへも遊びに行かずに過ごした。
他の友達をあたった。
免許を持ってる人はいなかったから、とにかく急だけど夏の旅行に誘ってみた。
付き合ってはくれたけど、ツアー申込は行ける場所が限られ、結局近場で特に行きたい場所でもなかった。
でもそこにするしかなかった。
惨めで苦しい夏…。
ギリギリまで騙され続けた感覚が消える事なく残っている。
同時期に電子オルガンの講師になった人たち。
仲良くやって行きたいという気持ちがあった。
趣味が合うとか気心が知れたとまでは行かなかったけど。
でもまさか。
ここまでいい加減で、こんな結果になると思ってなかった。
無責任女が夢を砕く~生育環境の落差より
丹羽登紀子のお父さんは普通の会社員で、お母さんは看護師だと言っていた。
共働き家庭だ。
そして兄と弟がいる。
お兄さんはすでに社会人で働いている。
働き手が複数いるから、その家の女の子は家事手伝いをする。
時には家族を駅へ送り迎えをし、家事をしていれば誰にも文句を言われない。
自分で得た収入で大きな買い物をした事は無い。目標金額のお金を貯めた事が無い。家族におねだりと甘えるのが当たり前の生活。
子供の頃からのそれが当然の暮らし。
バイト経験はあっても、それはお小遣い稼ぎ。
両親は長男の就職祝いに車をプレゼントし、そのお兄さんは休日にスキー、サーフィン、ゴルフを楽しむ。
郊外の一戸建てに家族5人で暮らす日々。
それだけの人生つまらないから、電子オルガンを教える。
収入を得るのが目的ではない。
人付き合いと社交の場を求めていたのだ。
井上理恵も共働き家庭だ。
兄が一人いる。
お母さんは保険の外交員をしていると言っていた。
普通の事務職より高収入。
丹羽の母親、看護師長(?)もそうだ。
お母さんの収入が一家をより豊かにする環境。
家にいる時間が少ない分、埋め合わせで子供に注がれるのは遊興費、教育費。
楽器や月謝、楽譜代は親が全部支払ってきたはずだ。
井上もお兄さんもスキーが趣味らしい。
兄妹でスキー板など一式を所有し、シーズンには装備して出掛ける。
井上も丹羽もバイクや自転車を使っていた。
自宅の駐車場は家族の持ち物でいっぱいに違いない。
彼女たちが育ったのは、働き手が得た収入を家族のために使う、それが当たり前の家。
皆が力を合わせて過ごす家。
深刻なトラブルの無い平穏な家庭。
そんな環境で育ち、それが当たり前でいる女の子。
自由にのびのび暮らしてきた。奔放に遊んでても何も困らない。
特に大金持ちってわけではない。平均的な家の子だと思う。
彼女たちの暮らしてきた環境が普通なのかもしれない。
だけどあまりに甘く何もかもが通用し、平和過ぎる。
私一人が気の進まない二人を強引に誘った訳じゃない。
3人の意見をすり合わせて決めた。
丹羽がまだ行った事の無い北海道へと行き先が絞られて計画を立てた。
盛り上がったその時の状況は二人が一番よく知ってるはず。
だからエネルギーと時間と費用をかけて私は教習所へ通った。
絆を信じて。
確かな約束、そのための免許取得、そう信じて。
電車とバスを乗り継いで通った日々。
雪の降る日が続き、凍えながらバス停で待った。
思い返すと涙が出てきた。
井上が最終的に旅行できないと返答した後、丹羽は兄がサーフィンやゴルフに行くからと話を振ってきた。
そうやって話がどんどん違う方向へ行く。
サーフィンにゴルフ…。
私がそれを始めようとしたらまた一から準備しないといけない。
教習所に何のために通って免許取ったのか分からないし、それ全く生かせないし、今度は別の、よりお金がかかる遊び。
もうついて行けないと思った。
それにお兄さん絡みだとまた肩身が狭いレジャーになる。
丹羽は自分の兄だから何の気兼ねも無くていい。
ふんぞり返って大きな態度でいてもいい。気楽だ。
でも私は違う。それじゃ全然意味が無い。
見下すのは平和な家の子より
口約束だけで消えてしまった夢のようなレンタカー旅行。
井上理恵はホントに口先だけ。
本人は、ただ冬の間中スキー旅行を楽しんだだけだし。
家族を盾に約束破りも裏切りも済ませてしまう。
自分は何の努力もしない。
二人とも家族というバックボーン、経済力を持った家族込でしか私と関わろうとしない。
親の車を貸してやればいいだろう。それで気が済むだろう。
そんな安易な発想だ。
彼女たちにとっては痛くもかゆくもない。
私一人が無駄に動き、話が違う方向へ逸れて行った。
元々の計画は完全に無効になり、経済的損失だけを被った。
やってられない。
親切心という名の横暴~傷と損失より
生い立ち№12
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約束を守らない友達~井上理恵と丹羽登紀子
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無責任女が夢を砕く~生育環境の落差
見下すのは平和な家の子
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2022年10月20日
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